数年前、お世話になっている銀行が主催する小規模なピアノコンサートを聴きに行った。会場は少し洒落た感じでコンパクト、落ち着いた雰囲気のホールだった。そのままレストランとかバーにできそうな感じだったのが印象に残っている。
そのコンサートの一番の目玉というか、注目の演目的なものはピアノとヴァイオリンの二重奏だったのだが、基本的にはピアニストの方が何曲か一人で演奏し、最後に二重奏というプログラムだった。
プロのピアニストの生演奏なんて小学生の時以来だったと思う。
プログラムには曲目と作曲家が書いてあったが、だれでも知っているような有名なものではなかった。比較的マイナーなものが多かったと記憶している。私が無知なだけかもしれないが
ピアニストさんが得意なもの、好きな作曲家を集めたプログラムなのかもしれない。 全体的にちょっと暗い雰囲気の曲が多かった。
演奏のほとんどは覚えていなくて、プログラムも とっくにどこかに無くしてしまった。
が、一曲だけ「もう一度聴いてみたい」という曲があって、そのことがずっと頭の片隅に残っていた。
本当ならコンサート終了後に調べてみればよかったのだが、 当時はピアノの曲というとサティのCDばかり聴いていて 他の作曲家には目もくれなかったので、結局調べずじまいだった。
もう随分時間が経つというのに、いまだにその曲が何だったのか気になっているので、思い切って探し出すことにした。
うろ覚えで間違ってるかもしれない断片的な情報としては
・フランス人の作曲家
・基本的に暗いけど、ちょっぴり華やかな部分もあった気がする
・少なくとも当時私の知らない作曲家だった
・覚えづらいタイトル(何とか曲第何番 みたいな)だった気がする
こんなところ。
探すにあたって使える情報は「フランス人」という部分だけだ。あとは個人の主観なので、役に立たない。しかも、フランス人作曲家という情報すら合ってるのか不明なので、ここが間違っていた場合はもう一生見つからないだろなぁ・・・といったところ。
とにかく、フランス人の作曲家にどういう人がいるのかを調べるところから始め、それらしいような名前の人の曲はyou tubeやAmazon musicで片っ端から聞いてみることにした。
最初は「聴けばわかるかも」なんて思っていたが、そんなことはなかった。
とにかく目についた作曲家で検索して、聴いて、それらしいかそうでないかを片っ端から判別していくしかなかった。
その中でいろんな音楽を聴いた。
目的の作曲家・曲ではなかったが、こんなのも見つけた。
黄金色の亀を曳く女。
この曲を聴いたとき最初に思ったのが「ALI PROJECTの北京LOVERSの間奏ってまるまるこれだったのか」ということである。
ALI PROJECTの楽曲にはしばしばクラシック音楽の引用が見られる。何気なく聴いているフレーズも引用だったりするので、たまにテレビから流れるクラシック音楽で引用部分が流れるとハッとする。
この曲を作曲したイベールという人物は割と最近まで生きていた人(といっても1960年代くらいまで)なので、著作権的にどうなのかは微妙に疑問があるのだが、引用元を知ることができたのはまあよかったかなといった感じ。
「黄金色の亀を曳く女」は切なげで素敵な曲なのだが、どうも北京LOVERSが頭をよぎってしまうのが残念だ。知る順番が逆だったら印象が全然違ったのだろうなと思う。
さて、道草を食ったが、結局 目的の曲は見つかったのか、というと。
それらしいものを見つけることはできた。
正直、それっぽい気がするだけで、本当にその曲だったのかはよくわからなかった。聴けばわかると思っていたけど、そんなことはなかった。
プーランクという作曲家の音楽を聴いたときになんとなく「こんな雰囲気かもしれない」と思えたので、プーランクの曲を集中的に聴いた。
明るめの曲ばかりだったので、違うかなぁとも思ったのだが、一つだけ暗い中に華やかさも感じられる曲を見つけることができた。
Francis Poulenc - Improvisation 15 Hommage à Edith Piaf
エディット・ピアフを讃えて
聴いた後の印象の残り方がコンサートで聴いたものとなんとなく似ている気がしたし、特徴的な部分とそれ以外の部分の感じ方もそれっぽい気がした。
この曲以上に当時聴いた曲と近いものは見つけられないような気もした。
弾く人によって雰囲気もガラッと変わるだろうと思ったのでいくつか演奏者の違うものも聴いてみた。
you tube上で素敵だなと思ったのが次の動画だ。
テンポは速いが、音の一つ一つが粒だっているような感じがして好き。急なお米的表現
最初は「近いけど、これじゃないかもしれない」と思っていたが、聴いていくうちに「もしかしたらこれだったのかもしれない」になっていった。そう思おうとしているだけかもしれないし、実際にこの曲だったのかもしれない。釈然としない終わりではあるが、『エディット・ピアフを讃えて』自体は素敵な曲だし、この曲を知れたことに関してはよかったと思っている。
よくよく調べてみると、プーランクという人はそれこそサティやドビュッシー、ラヴェルなんかとほぼ同じ時代を生きた人で、彼らより若い世代の人だった。プーランクが若いころに影響を受けた作曲家としてサティやラヴェルを挙げていたそうな。
この時代のフランスはなんだかすさまじい。
クラシック音楽というと、大昔の貴族的な人が作曲したもののように思っていたが、1900年前後あたりになると全くそんなことはなくて、だいぶ現代的な感じすらしてくる。
1900年代半ばとか言われると、だんだんクラシック音楽というジャンルの基準がよくわからなくなってくる。クラシックかそうでないかは、きっとその道のプロが仕分けてくれるだろう。私のような素人はその分別に甘んじておけばいい。
それにクラシックだろうとそうでなかろうと、いい音楽はいいし、合わないものは合わないし。