映画『かもめ食堂』の原作小説を読みました。
小説版は、映画を制作するにあたって群ようこさんが書き上げたものになっています。
サチエ、ミドリ、マサコの女性三人がフィンランドの食堂で仕事をするという大筋は同じですが、細かい部分で少し話が違っていたり、映画では語られなかった部分が多く書かれていたり、満足な作品でした。
映画版より3人のことが詳しくわかる
映画『かもめ食堂』はかなり雰囲気よく作られています。かもめ食堂のこと、空気感、人、そして食べ物。映画の中の空間に憧れてしまうような、清潔でシンプルでそれでいて充足した雰囲気は映画『かもめ食堂』が良いと思えるための要素です。また、3人がフィンランドにやってきたそれぞれの理由を多く語らないのも、映画版ならではの余白、シンプルさを生み出しています。
小説版では3人がどんな理由で何故フィンランドにやってきたのか、日本では何をやっていた人なのか、きちんと説明されています。映画版では最初からかもめ食堂は存在していますが、小説版はまずサチエがフィンランドにやってくる経緯から始まるため、すでに映画を見ている人も楽しめます。
サチエがフィンランドにやってくるまでのお話はちょっとぶっ飛んでる部分もあるのですが、それでも「まあ…そっか」と思わせてくれるのは群ようこさんの実力なのかもしれません。群ようこさんの読みやすく軽いシンプルな文体は、登場人物と出来事とストーリーを優しく馴染ませて「そういうもの」として認識させてくれるようです。
マサコの超人感はかなり薄まっている
映画版では荷物が行方不明になってもあまり動じず、森で不思議体験をし、さらには理解できないはずのフィンランド語をなんとなくで感じ取ったりと、何か超人めいた雰囲気をかもし出していたマサコですが、小説版では至って普通の人になっています
もたいまさこさんを不思議な雰囲気の役にしたいのはすんごい良く分かるし、実際、映画版のマサコはそれでうまくいってたと思います。おそらく、群ようこさんともたいまさこさんがご友人ということもあって、もたいさんのことをよく知っているからこそ、小説版はより人間らしいマサコを書けているんでしょう。
そもそも映画『かもめ食堂』は、群ようこさんの作品を原作とすることは決まっていたそうなのですが、群ようこさん自身はもたいまさこさんを主人公に考えていたそうです。そこに もたいさんがやってきて「小林聡美さんを主人公にしたらどうか」と提案したところ、『かもめ食堂』が完成したのだと語られています。ソースはこちらのインタビュー
映画版の『おにぎり』信仰も控えめ
小説版のサチエも、おにぎりに対してかなりこだわりを持っています。しかし、小説版ではフィンランド人はほとんどおにぎりを気に入ってくれません。あのかもめ食堂の最初のお客さんであるフィンランド人の青年 トンミ・ヒルトネンですら おかかおにぎりは苦手だったようで、旦那さんに逃げられてしまったフィンランド人の女性 リーサがおにぎりに挑戦しようとしているところに「おかかはやめたほうがいい」と警告しています。
映画版では最終的にはおにぎりがかなり評判になってるような描写があり、小説版とは違ってフィンランド人にも受け入れられています。
小説版のほうがやや現実より
『パンとスープとネコ日和』の時もそうだったのですが、『かもめ食堂』も小説版のほうが現実的に書かれています。上記のおにぎりの件もそうですが、サチエ、ミドリ、マサコが何を捨ててフィンランドでの生活を得ているのかはっきりと話に組み込まれているため、映画版のふわっとした余白の多い良さよりも、一つの物語として成立している良さがあるように感じます。
おわりに
勢いで小説『かもめ食堂』を購入したはいいものの、映画の内容を知ったうえでも楽しめるのだろうかと心配でした。しかし、映画版よりもしっかりとした人物像や、細かいストーリーの違い、現実よりな設定など、映画版とはまた違った良さがたくさんありました。群ようこさんらしい読みやすい文体だったので、普段小説を読まない方にもおすすめです。映画版を見てから小説を読むと人物を想像しやすくて良いかもしれません。
↑映画版です。『かもめ食堂』に興味を持った方はぜひご覧ください。