ニンテンドー64が全盛期だった頃、私はまだ小学生になるかならないかくらいの子供だった。あんまりうまくゲームができなくて、姉や父が遊んでいるのを見ているのが好きだった。
いつの日か、姉が64で『ヨッシーストーリー』をやっているのをおやつを食べながら見ていて、一緒に冒険している気分でとても楽しかったのを覚えている。
ヨッシーストーリーは絵本のような世界観がかわいらしく、ヨッシーのほんわかした雰囲気とバッチリあっているゲームだ。内容もヨッシーがフルーツを集めていくという、説明の上では大変やさしそうなものとなっている。
ただし、1ステージ目は明るい雰囲気で物語の開幕を目いっぱい感じるものだったのに対し、2ステージ目は急におどろおどろしい雰囲気となるため落差がエグかったり、ヨッシーがやられたときの演出がやたら怖かったり、下水道をモチーフにしたステージが狭くて暗くて、ジメっとしたラップがなんとも言えなかったり、ほねほねりゅうとかパックンのグネグネした動きが気持ち悪かったり、子供心にやたらと恐怖を感じるような演出がある。
そう、ヨッシーストーリー、結構こわい。
表のかわいさとは裏腹に、理解しがたい不気味さがどこか影のようについて回るのがヨッシーストーリーなのである。
特に2ステージ目の洞窟の怖さは、小さい頃異常に怖がりだった私にはなかなかきびしいものがあった。辛うじてウンババが平気だったのでギリ遊べたけど、ステージセレクト画面がもうこわいんだわ
とはいえ、当時姉はすでに小学校高学年。私には怖くても姉は全く動じない。ヨッシーストーリーをやりこむことに精を出していたレベルだ。
あの日、姉はトライアルモードを遊んでいた。ステージを単発で遊べるモードだ。気に入ったステージやマップを把握しきれていないステージを遊べるので、練習にもちょうどいい。
遊んでいるうちに小腹が減った姉は「食料を探しに行く!」と、台所へ向かった。おやつのことを「食料」という姉の言い回しが好きだった。なんてことないゲームの時間が大冒険のように感じられる。「食料」を探しに行った姉を、私はゲーム画面の映ったままのテレビの前で、とくに何もしないで待っていた。
何もしないで待っていた。
画面に映るトライアルモードのステージセレクト画面。
当たり障りのない陽気なBGM。
なかなか帰ってこない姉。
何もしなかった私。
急に陽気なBGMが途切れた。
あれ…?トライアルモードの音楽って終わりがあるん……
「テ、テレレッテテ…テッテ…テッテ………テ、テレレッテテ……テッ…テ……テ……」
……???????
唐突に、小さなつぶやきのような音楽が画面から流れ出す。私は驚いてテレビを凝視していた。
ゲーム画面自体に変わったことろはない。おかしいのは音楽だけ。
何が起こっているのか理解できなかった。怖すぎて恐怖に固まっていたと思う。
ほんの数フレーズの得体のしれない音楽が終わると、何事もなかったかのようにいつもの陽気なBGMが戻ってきた。
訳が分からなかった。
理解できなさ過ぎて泣きそうになっていたと思う。
怖くて怖くて、食料を探しに行ったままの姉のところに助けを求めに行った。姉はすぐゲーム画面を見に来てくれたが、画面はいつものステージセレクトのままだし、音楽もいつもの陽気な音楽だった。
おかしい。そんなはずはない。私は確かに聴いた。あの得体のしれないフレーズを!
どんなに説明しても、どれだけ待っても、同じ状況にはならなかった。「嘘つき」と思われても仕方ない状況だったが、姉はとくに私を責めたりしなかった。
そのあとはまたゲームを再開していつもどおり遊んだが、私はずっと(あれはなんだったんだろう……)と思い続けていた。
……で、時は流れ。私は立派なゲーマーへと成長した。
任天堂のゲームは相変わらず好きで、任天堂ハードのゲームの小ネタなどの知識も豊富になってきた頃、私はある隠しネタを知った。
「ヨッシーストーリーのトライアルモードのセレクト画面で約2分待つと『けけソング』が流れる」
こ、これだ――――!!!!
けけソング。
それは任天堂ゲーム音楽を数多く手がけている戸高一生さんが携わったゲームに、ひそかに隠されているとされる謎の音楽。けけソングはたいていの場合 巧妙に隠されており、時折古いゲームでけけソングが発見されると話題になるレベル。
幼い頃の私は!このけけソングに!
ノーヒントで遭遇してしまったのだ……!!
ヨッシーストーリーに関してはかなり条件が優しいので遭遇しやすさはあった。
とはいえ!!
急にBGM止まってあんな音楽が流れ始めたら怖いに決まってんだろうがぁあああ!!!!!!
……ということで、幼い頃に体験したゲームのこわーい思い出でした。
64時代って地味に怖いの多くて、時オカのリーデッドにガチ泣きするなどした記憶がね……。今思うと「何がそんなにこわいんだ」って話なんですけど、子供の頃はなんだってこわかったんだよ…。
いつかこの話書きたいとずっと思っていたので、今回無事成仏させることができてよかったです。